<Techno Geek>
僕の趣味は? って聞かれると色々候補は上がるけれど、やっぱり一番好きなのは
機械いじりかなぁ。科学や数学の勉強も悪くは無いけどね。
家族にはその面白さをあんまり理解しては貰えないけど、機械って本当に奥が深い。
子供の頃、先生が拾って来たゴミの中から見付けた小さな鉄の箱。アレの中身を見た
時の、僕の感動は言葉では言い尽くせなかった。複雑に絡み合った導線と、部品の
沢山付いた基盤が幾つか。その不思議なモノ達が織り成す緻密な世界に、僕は虜に
なってしまったんだ。
だから思わず熱中し過ぎて、周りが見えないなんて事もよくあるわけで。
「……ニー! ドン! 聞いてるのか?」
少し乱暴に肩を叩かれて、漸く僕を呼ぶ声に気付いた。顔を上げると、呆れたような
表情で僕を見下ろしているレオナルドと目が合う。
「え? ああ、レオ。えーとごめん何だっけ?」
「何だっけ、じゃない。今何時だと思ってるんだ?」
「あー…………えっと?」
視線だけで辺りを探って見るけど、生憎と時計が見当たらない。ちょっと気まずげに
頬をかきながら首を傾げると、レオナルドは後ろ手に持っていた時計を僕の目の前に
突き出した。デジタル時計の数字は0、2、3、1。
「つまりマイキーも眠る丑三つ時って奴だ。それなのにお前は……」
そう言えば、いつも夜更かししてTVを見ているミケランジェロの姿がいつの間にか
消えている。良く見たらレオナルドも刀を背負っていない。
「もしかして起こしちゃった……とか?」
「別にそう言うわけじゃないけど。でも喉が渇いて起きてみたら、まだ明かりが点いて
たんだから驚くだろう」
溜息を付いて、腰に手を当てるレオナルド。
「集中力があるのは悪い事じゃないけど、体にいいとは言えないぞ。眠くならないの
か?」
「う〜ん……どっちかと言うとアドレナリンが分泌されてより興奮状態と言うか」
「全くもう。とにかく、ホットミルクでも入れるからそれ飲んでさっさと寝るんだぞ」
言いながらキッチンへ向かうレオナルドを見送って、僕はある事を思い付いていた。
「ほら」
「ありがと」
機材を片付けて手に付いた油を拭っていると、マグカップを二つ携えてレオナルドが
戻って来た。一つ受け取り、湯気の立つミルクをゆっくり味わう。
定位置の椅子に腰掛けて何の気なしを装って、それでも意識はレオナルドに向けて
いる。傾けたカップの陰から見えるレオナルドは何を考えているのか、黙って柱に背を
預けていた。
気付かれてもやりにくいし、白い水面に薄っすら映る自分の目に視線を戻す。
さて、どうするか。
少し熱いくらいのミルクが喉を通り、腹に落ちて行く。けれど、僕の欲しい熱はこんな
ものじゃないんだ。
レオナルドが飲み終えたカップを回収してキッチンに戻る。大きな音を立てないよう
気を付けながら洗い物を開始するその姿は、可愛いエプロンでも付けた方が似合い
そうで。
ぽこんと頭に浮かんだ一つの単語に、僕は本日の仕掛けの方向性を決めた。
レオナルドの背後に忍び寄り、そっと腕を伸ばす。濡れ手を拭き終えたレオナルドが、
気配に気付いて振り返っても動きは止めない。
「ドニー?」
「何かさ、レオって時々お母さんみたいだよね」
「え?」
「僕たちお母さんはいないけど、でも、もしお母さんがいたらこんな感じかなって思う」
「……ドニー……」
レオナルドの声が、戸惑いながらも気遣うような色を見せる。
本当、面倒見がいいって言うか、人がいいんだから。
自分だって立場はおんなじ筈なのにね。
そんな彼の性質を存分に利用させて頂こうとしている僕は、相当人が悪いんだろう
なぁ。
自分の性格を客観的に判断しながら、レオナルドを抱き締める腕に力を込める。
「ね、レオ。今日は一緒に寝ない?」
そうしてちょっと甘えたような声を出せば、彼がゆっくり頷くのがわかった。
「こうやってると思い出さない? 昔の事」
「そうだなぁ……確か、冬だったっけ」
「そうそう、あの年は稀に見る寒波って奴で下水まで凍る勢いで」
「俺たち亀だし、きつかったよなぁ」
子供の頃ならいざ知らず、すっかり大きくなってしまった今となっては二人でベッドに
入るのは至難の技だ。自然と、獣の子のようにぴったり密着して眠る。電気を消して
大分経つから、暗闇の中でも目の前のレオナルドが笑う顔が良く見えた。
毛布の下をそっと探って、レオナルドの手に触れる。
「あの時も、レオは一番優しかったよね」
「そうだっけ?」
「寒いって泣くマイキーの手をずっと摩ってやってたじゃない。こうやってさ」
レオナルドの手を掴んで顔を寄せる。ふぅっと息を吹き掛ければ、擽ったそうに笑う。
「何か違うよ、ドニー。それじゃあ余計に寒くなっちゃうだろ」
「ああ、そうだったね」
くすくす笑いながら、それでも彼の手は離さない。
そしてそのまま、今度は吐息じゃなく口で指に触れた。
「でも、こうすればきっと熱くなるよ」
「え……っ、な、ちょ、ドニー!?」
指先にきつく吸い付けば、レオナルドの体が面白い程にびくりと跳ねる。慌てて手を
引っ込めようとするけれど、僕はそれを許さなかった。
僅かに位置をずらして、何度も何度もキスを落とす。
「やっ……ドニー、やめ…………ッ!!」
レオナルドは本能的に逃げようとしたけれど、狭いベッドの上。手は僕にしっかりと
捕まっているし、背後は壁だ。顔の上に腕を伸ばし手を突いてしまえば、起き上がる
事も出来なくなってしまう。
そうやって逃げ道を全部塞いでおいてから、僕はレオナルドに笑い掛けた。
「今度は、僕をあっためてくれる?」
「ぁ、あ、あ、ッくぅっ……んっ!!」
固く握り締められたシーツの皺がまた一つ増える。
相変わらず、レオナルドの声は綺麗だ。
この耳に心地良い音が高く掠れる時が、こんなに扇情的だとは思いもしなかった。
恥ずかしいのかそれを抑えてしまうのが勿体無いのだけれど。
声を上げないよう必死に耐える姿も悪くないけど、やっぱりもっとハッキリ聞きたくて、
角度を変えてレオナルドを深く貫く。
「ひぁっ……!! や、あぁ、ド、ニー……!!」
「……っは、レオ、それ、反則……ッ!」
そんな声で呼ばれたら、我慢出来なくなっちゃうじゃない。
欲望の求めるまま更に速度を速めると、とうとうそこまで気を回す余裕が無くなった
のか、レオナルドの口から切なげな声が引っ切り無しに漏れ始めた。
「っゃあっ、あ、ん、ドニー、ッは、あ、ドニー、もぅ……っ!!」
ああ、もう。
どうして君はそう誘うのが上手いかな。
意識してやってるわけじゃないとわかっていても、そう思わずにはいられない。
名前を呼ばれるだけで、下腹部の辺りに重い痺れが走るんだから。
でもそろそろ、僕もいい加減限界、かな。
「……OK、イッていいよ、レオ」
レオナルドの腰を掴んで、一番奥を思い切り突き上げる。
「ぅ…………あああぁっ!!!」
「レオ……レオッ……!!」
悲鳴を上げて、気を失うレオナルド。
途端に引き千切られるように締め付けられて、僕も彼の中で果てた。
「おっはよ〜皆〜……あれ? レオがまだ起きてないなんてめっずらし〜」
いつも通り一番最後に起きて来たミケランジェロが、リビングを見渡して首を傾げた。
正座してお茶を飲んでいた先生も心配そうに髭を撫でる。
「ふむ……何かあったかの?」
「ああ、レオならちょっと風邪気味らしくて。僕が面倒見てますから大丈夫ですよ先生」
ミネラルウォーターをコップに注ぎながら僕が言えば、二人は納得したように頷いた。
水のグラスを小さなトレイに乗せて部屋に向かう。部屋のある足場に飛び上がると、
不機嫌そうに腕を組んだラファエロの姿が目に入る。さっきまでサンドバッグと遊んで
いたと思ったけど。
何も言わずに前を通り過ぎると、低い声で呼び止められた。
「……風邪で寝てるはずのレオナルドが、何でお前の部屋にいるんだ?」
「さあ? 何でだろうねぇ?」
にっこり笑う僕を、ラファエロは射殺すような目で睨み付ける。
「テメェまさかとは思うが……無理矢理レオを……」
「まっさかぁ。そんな事しないよー、僕は君と違って紳士だもの」
罠は仕掛けたけどね。
「誰が紳士だ誰が!? 腹黒の間違いだろーが!」
語気を荒げるラファエロに思わず肩を竦める。まあ無理も無いけど。
「もういいかな? レオが待ってるだろうし」
「…………ちっ」
レオナルドの名前を強調すると、ラファエロは仕方なさそうに踵を返した。下に飛び
降りる時、小さく「負けてたまるか」と呟いて。
ほんっと、不器用なんだからなぁ。
苦笑いしながら僕は部屋に戻る。
「レオ」
呼んでみるけど返事は無かった。トレイを机に置きベッドに腰掛ける。
二人分の体重でスプリングが軋んだけれど、レオナルドが起きる気配は無い。
……やっぱり、ちょっとやりすぎちゃったかも。
疲労の色濃いレオナルドの頬に、そっと指を滑らせる。暖かい。
指先から愛しさが込み上げる。
機械は勿論好きだけれど、この暖かさを感じる事は出来ない。
いや、例え他の誰でも、きっと彼と同じには感じられないんだと思う。
彼だから。
大好きな兄、レオナルドだからこそ。
「好きだよ、レオ」
囁いて、少し赤くなった彼の眦にキスをした。
END
もたもたし過ぎてレオをドニーに取られましたヘタレラファエロさんの図(ヲイ)。
モノスゲェ難産でございました……(吐血)。駄目だエロ書けません無理無理。マジ無理。
奴らのアレなところ(爆死)がどうなってるのか未だにわかりませんし。
仕方ないので某H様のアドバイスに従い「いつの間にかプラグイン」採用で(爆笑)。
しかしまさか初エロがドナレオとは。流石は腹黒紳士(何その称号)。
だって寸止めとか本番無しとかドニー的に有り得なさそうなんだもの。やる男ですドニーは。