<初めての携帯電話・1>

「……おい」
「はい?」
「鳴っている」
「あ、その曲メールですから」
「…………」
「ほら、すぐ止まったでしょう?」
「…………」
「これでよし、と。さて、誰からですかねっと……おや、菊千代」
「…………何」
「うわ! びっくりした〜……」
「菊千代が、どうした」
「ああ、今届いたメール、菊千代からですよ」
「メール……」
「ええと、今日は家の用事があるから部活を休む……そうですよ、部長」
「……わかった」
「部長は快諾、っと。あ、そうだ……先日は本当に助かりました、と」
「…………何だ」
「え? いえ、先週の土曜日に菊千代とちょっと約束があったんですよ」
「…………」
「久蔵殿?」
「携帯電話、か」
「?」



菊千代関連故に携帯電話に興味を持つ久蔵(笑)。



<初めての携帯電話・2>

「いらっしゃいませ!」
「…………」
「機種変更ですか? それともご新規で?」
「……買うのは初めてだ」
「新規契約ですね、かしこまりました。ではどちらの機種になさいますか?」
「…………」
「こちらは先日発売された最新機種となっておりますが……」
「………………む」
「お客様?」
「これだ」
「はい、こちらの……オレンジ、ですか?」
「そうだ」
「申し訳ございません、お客様。只今オレンジは人気色の為在庫が……」
「これだ」
「ブラックやシルバー、レッドでしたら今日中にご用意出来」
「これだ」
「ますが……わかりました、では数日お待ち頂けますか?」
「…………ああ」
「で、では少々お待ち下さい」
「…………」
(高校生……だよなぁ? こ、怖えぇ……)
「……あいつの髪に、良く似ている」



選考基準も菊千代。菊千代好き過ぎだな久蔵!(笑)



<初めての携帯電話・3>

「……おい」
「お、キュウタロウ先輩。こないだは部活休んじまってすまねぇな」
「いや……次からは……」
「次からは?」
「俺に直接、連絡しろ」
「あ、それ……先輩遂に携帯買ったのか」
「きゅ、久蔵先輩が携帯を!?」
「うお! 何だよカツの字急に出て来やがってビビったぁ」
「い、いやすまぬ。あまりにも意外だったので」
「…………」
「いいじゃねぇか、うちゅ……先輩だって一応若者なんだしよ」
「それはそうだが……」
「まあ、確かにオレンジ色ってのは意外だな。先輩赤色好きだし」
「…………、っ」
「んじゃ先輩の番号とアドレス教えてくれよ。俺のも教えるし」
「わかった。所で」
「ん?」
「アドレスとは、何だ」
「「…………」」



剣道と菊千代以外に興味の無い久蔵。世界狭ッ!(笑)



<初めての携帯電話・4>

「わかった、俺様が教えてやるよ……まずメニューを開いて」
「画面が真っ暗なのだが」
「電源の入れ方もわかんねぇのかよ!!」
「あの、先輩……取扱説明書は……?」
「読んだが、意味不明な単語だらけだった」
「カツの字……こいつは宇宙人じゃねぇ、原始人だ」
「菊千代殿! で、ではそこのボタンを三秒程押しっぱなしにして下さい」
「…………付いた」
「付いたらもうボタンは離しても良いですよ」
「ああ」
「電源を切る時も同じように三秒程押して下さい」
「わかった」
「先が思いやられるぜ……じゃ、次はそっちのメニューボタンを一回押す」
「む」
「その矢印が付いた奴の上下左右を押すとメニューが選べる。ほら、動いてるだろ」
「なるほど」
「で、ここに合わせてこの丸い決定ボタンを押すと……」


「おっはよーございまーす! ……あれ、まだ自主練ですか?」
「平八先輩! おはようございます!」
「やあ勝四郎君。何ですか? あれ。あんな隅っこで小さくなって」
「それが、その……」
「はあ、久蔵殿が携帯をねぇ……」
「私は練習に戻れと言われて。もう30分はあのままですよ」
「今日は朝練になりませんか。いやはや全く、嬉しそうにしちゃって」
「嬉しそう……?」



邪魔者(=カツの字)を追っ払って久蔵幸せタイム(笑)。


<初めての携帯電話・5>

「よし……これで登録終了っと。試しに俺にかけてみな」
「うむ」
「……ホラ、かかったろ? んじゃ次はメールな」
「ああ……」
「そーそー、そーやって変換して、決定。改行はわかるだろ?」
「長押し……だな」
「その通り!」
「では、送る」
「…………お、来た。よしよし、完璧だな。俺様の教えがいいんだろうな!」
「かたじけない」
「おう、いいって事よ!」
「む……これは………………菊千代」
「ん? ――っておい! 何いきなり写真撮ってんだよ!!」
「これを待ち受け画面とやらにするには、どうすればいい」
「何で俺様の写真なんか待ち受けにしなきゃなんねーんだよ! やめろ!!」
「なぜだ」
「なぜって……普通おかしいだろ! 後輩の写真が待ち受けって」
「俺は構わぬ」
「先輩が構わなくても俺が構うっつーの!! 貸せッ削除してやる!!」
「……させぬ」
「ちょ、待っ、コラァ! 手ェどけろ、遠ざけんな!」
「却下だ」
「はいはーい、いちゃつくのはそこまでー」
「む」
「誰がいちゃついたんだよ誰が!」
「久蔵殿、ちょっと」
「何を……」
「お、いいぞそのまま消せ!」
「さて。はい、チーズ」
「「!?」」
「……保存、設定、と。はい、これなら双方文句無いでしょう?」
「…………」
「仲良しコンビのじゃれ合い写真。別におかしかありません」
「う〜……」
「久蔵殿は普段無愛想なんですから、待ち受けくらい可愛げが無いといけませんよ」
「…………わかったよっ! ったく……おい、カツの字! 一本相手しろ!!」
「は、はいっ」
「やれやれ……」
「……かたじけない」
「一つ貸し、にしときます」



期せずして菊千代と密着ラブラブ写真(笑)ゲット。良かったね久蔵!