<母さんお肩を>
「はー……やれやれ、こいつで一段落っと」
「どしたよモモタロー、随分お疲れじゃねぇか」
「ああキクチヨ、今日は何かと立て込んでいましてね」
「んなもんカンベエの野郎にも手伝わせりゃいいじゃねぇか」
「そうは言ってもねぇ。あたしは一応カンベエ様の」
「女房役だから、ってか? けっ、ご苦労なこったぜ」
「キクチヨ?」
「おら、座れよ」
「何で……」
「いいから座れって!」
「はいはい、何です……ッ!? あ、ったたたたたた!」
「……かなり凝ってんぞモモタローよう。マサの字にも負けてねぇや」
「い、たっ、へ、へぇ〜、マサムネ殿に、もっ、やって差し上げてた、んですかい」
「あいつにゃ世話んなってたし肩揉みくらいはな。しかしよお、オメェこの歳でこんなに
凝らしてどーすんだよ」
「そ、そんなに凝ってますかい……お、う、あ、そこ、効く〜……!」
「いやー軽くなった! どうもすいませんねぇ」
「へっへー、どうよ俺様の技術は!!」
「恐れ入りますよ、全く。サムライ辞めて按摩にでもなったらどうでげす?」
「馬鹿言いやがれってんだ。俺様は生涯サムライよぉ!」
「はは、そうでしたね」
「……おっさま、さっきから家の外で膝抱えて何やってるです?」
「ほっといてお上げなさい。父親と言う生き物は、得てして寂しいモノなんですよ」
「……? オラよくわかんないです」
「んなもんカンベエの野郎に〜」から聞いてたおっさま(笑)。
お父さんはお母さんと年頃の娘に邪険にされてるご家庭が多いような気がします。
<役得セクハラ>
「全く……一体何をやってるんです、あなたは」
「昼間ガキどもと川遊びしてたら足が滑ってよ……」
「それはいいんですけど、それなら後でちゃんと拭いておかなきゃダメでしょう。ああ、
こんなとこまで錆び付いている」
「……う〜……」
「ぷっ……そんな顔しなくても。大丈夫、ちゃんと隅々まで綺麗にして差し上げますよ」
「すまねぇ」
「いいえ。はい、ちょっと腕回して」
「おう」
「え〜っと……ここが……」
「――――ッ!?」
「どうしました?」
「え!? や……何か……その、く、くすぐったくてよ」
「へぇ、結構感覚鋭いんですね。どう言う構造なんですか? その辺」
「俺様も良くは……って、ちょっ、待……お、面白がってるだろテメェ!!」
「そんな事ありませんよ♪ 一回分解して調べてみたいですねぇ」
「ひっ……怖ぇ事言うなあ!! だ……っから、くすぐってぇって!!」
「はっはっは、冗談ですよ」
「………………」
「キュウゾウ殿……気持ちはわかるが、無闇に殺気を放つのはやめて貰えまいか?
ほれ、村人たちが怯えておる」
「ヘイハチ殿にはやり過ぎないよう、あたしからようく言っておきますから」
「……承知……」
ヘイさんは確信犯です(笑)。見せ付けてます。
<ゆきどけ>
「うはー、もうすっかり溶けちまったなァ。グランドがぐちゃぐちゃだ」
「……せんせい」
突然足にしがみ付く一人の園児。その目は今にも泣き出しそうに歪んでいる。
「キュウゾウ? ど、どうしたどこか痛ぇのか?」
「せんせい」
優しく声を掛けても、しがみ付く力をぎゅうっと強めるばかり。
「キュウゾウ? 一体どうし……」
「きえるな」
「え?」
「いなくなるな」
「キュウ……?」
ふと視線を上げれば、敷地の隅に僅かに残った雪の塊。緑の葉と赤い実が近くに
一揃い散らばっている。
漸く合点が行って、キクチヨは微笑みながらキュウゾウの頭を撫でた。
「心配すんな、俺は消えたりしねぇよ」
「……ほんとうか?」
「おうよ! お前ら可愛いガキども置いて、俺様がどっか行く訳ねぇだろ?」
今にも溢れそうだったキュウゾウの涙がすっと引っ込む。
「よーし、いい子だ。強いぞキュウゾウ!」
「…………うん」
脇の下に手を入れて小さな体を高く持ち上げてやると、ほんの少しだけ笑う。
つられて、キクチヨも笑った。
「おーし、そんじゃ今日は何して遊ぶ?」
「……かくれんぼ」
「りょーかーい」
キクチヨだるまが溶けてしまって不安に駆られたキュウゾウ。
一生懸命作った雪だるまが消えてしまうのが子供心に少し寂しかった。