<花色衣>



「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん…………」
 城下町に店を構える老舗の呉服屋。その上がり框に腰掛け、顎を弄りつつひたすら
唸っているのは、今やその名を知らぬ者は無いと言われる宮本兎。彼の目の前には
色取り取りの反物が折り重なり、美しい波を立たせていた。
「う〜む、ここはやはり青だろうか……」
「はあ。ところで宮本様、贈られるお相手は一体どのようなお方で?」
 既に半時は悩んでいる若殿の用心棒を見るに見兼ねて、大旦那が声を掛ける。
 すると、途端に兎の顔がぱあっと輝いた。
「うむ、実に素晴らしい方だ。師の教えを良く守り己を高め、その為の努力を惜しまぬ
勤勉な人柄で、それでいて実直で――」
「あの、兎。そうじゃなくて、見た目の特徴を聞いてらっしゃるんですよ」
 今にも拳を振り上げそうな勢いで熱弁を振るう兎に、背後から巴が呆れて言った。
 やっぱり付いて来てよかったとこっそり思う。
「あ、ああ、そうか。すまない」
「全くもう……えぇと、背丈は五尺程で」
「好きな色は青だと言っていたし、彼には青が良く似合って」
「だからちょっと黙って下さい、それで亀の方ですから背中に甲羅があって」
「ああ、なるほど。でしたら……月草などは如何でしょう」
 あからさまにほっとした表情で笑って、大旦那は色彩の海の中から反物を一反取り
上げた。





「レオナルド!」
「やあ、ノリユキ! 久し振り」
 ゲートから出た瞬間、飛び付いて来た小さな城主にレオナルドは優しく笑い掛ける。
 少し大きくなったなぁと頭を撫でてやると、くすぐったそうに微笑む。
「あのね、今日は町の神社でお祭があるんだよっ」
「お祭?」
「じきに田植えが始まるでしょ? その為の豊作祈願のお祭なのよ」
 すぐ傍に立っていた巴が解説を加え、レオナルドはなるほどと頷いた。と同時に急に
腕を引かれてバランスを崩す。
「うわ!?」
「折角だから着替えて参加してみたら? 兎が案内役を買って出てくれたようだし」
「ウサギが?」
 巴に引き摺られるように廊下を移動して、部屋の一つに押し込められた。畳張りの
部屋の中心には桐の箱が置いてある。
「トモエ、これは?」
「兎があなたの為に用意したのよ。着替えたら城門に行ってあげてね」
「えっ」
「そこで彼が待ってるから。それじゃ私はこれで」
 にっこり笑ってぴしゃりと襖を閉められて、レオナルドは途方に暮れる。
 スプリンターを見ているから大体の着付けはわかるけれど、もしトモエたちのような
複雑そうな服だったらどうしよう。彼女はもう戻ってしまったようだし。
 ほんの少し心配になりながら、レオナルドは膝を付き箱の蓋を開けた。





「ウサギ!」
「……レオナルドさん!!」
 落ち着かない様子でぐるぐる歩き回っていた兎に声を掛けると、慌てて駆け寄って
来る。
「遅くなってすまない。着付けが初めてで難しくて……」
 変じゃないか? と聞かれて兎はぶんぶんと首を振った。
 縹色の着流しを黒の帯できっちりと締め、いつも背中に背負っている刀は二振りとも
腰に下げている。布地には流水のような模様が織り込まれていて涼やかだ。それに
何より、着物を着ているレオナルドと言うものが酷く新鮮で、どことなく眩しく映る。少し
恥ずかしそうに笑う姿が年相応に見えて、とても可愛らしかった。
「そんな事! とても良く似合っています!」
「そうかな……ありがとう」
「さあ、行きましょう。そろそろ神楽が始まりますよ」
 さり気無くレオナルドの手を取って、兎は門をくぐった。





「ふぅ……結構広いんだなぁ」
「そうですね、少し休みましょうか」
 一口に神社、と言ってもその規模には色々と差がある。二人が訪れたのはかなりの
広さを持った神社で、出店の数も凄ければ人の入りも物凄かった。元々地下に隠れ
住み、地上では影となって動いて来たレオナルドには、人込みは少々馴染みの無い
環境だったようで、日が傾いて来た頃には大分体力を消耗してしまっていた。
 兎はやや顔色の悪いレオナルドの手を引いて、出来るだけ人気の無い所を探す。
「そうだ、上なら……」
 ふと階段が目に入り、この神社は小さな山の中腹にある事を思い出す。階段の上は
確か、分社や摂社が幾つか点在する参拝経路になっているはずだ。鎮守の森に一層
近く、道も狭い。そこならレオナルドを休ませられる。
 兎はそう当たりを付けて石段を登った。案の定、人の姿は無い。
 具合の良さそうな石にレオナルドを座らせ、水の入った竹筒を渡す。
「大丈夫ですか? ここに座って」
「ありがとう……すまない、折角誘ってくれたのに」
「気にしないで、さあ飲んで下さい」
 頷いて、竹筒を口に当てるレオナルド。一通り飲み終わるのを待って、兎は懐から
小さな包みを取り出した。
「それは?」
「開けてみて下さい」
 笑って言われて、レオナルドは首を傾げながらも縮緬包みの紐を解く。中から転がり
出て来たのは星のような花のような、可愛らしい色合いの小さな粒。
「金平糖」
「疲れた時には甘いものがいいと言いますから」
「……ありがとう」
 一粒取って口に放り込むと、舌の上にほんのりと甘さが広がる。
 その優しい味に、ウサギみたいだな、とちょっと笑うレオナルドだった。





 家族へのお土産を詰め込んだ袋を抱えて、レオナルドは岩にゲートを開く為の絵を
描いている兎の背中を見詰めた。夕暮れが辺りを赤く染めている。
 兎が岩から離れると、そこに見慣れたゲートが姿を現す。
「それじゃ、今日は本当にありがとう」
「いいえ、こちらこそ」
 笑って手を差し出せば、彼も笑って握り返してくれる。そう思ったのだが。
「っ!?」
 握った手を勢い良く引かれ、レオナルドは前につんのめる。
 そして次の瞬間、彼は兎の腕にしっかりと抱き締められていた。
「う、ううううウサギ!?」
「すみません……こうしないと届かないもので」
 兎は少し困ったように笑って、レオナルドにそっと口付けた。

「次はもっと静かなところにお誘いしましょう。ではレオナルド、気を付けて」





「あっ、おっ帰りぃ〜、レオ! それお土産!?」
「あ、ああ、うん……」
「ってゆーか何そのカッコ!! すっげぇ、映画みたい!!」
「ああ、これは兎がくれて……」
 そんな二人の会話を聞きながら、ドナテロはサンドバッグをボコボコにしている弟に
目を向けた。
「へぇ……やるじゃん、彼。あれ結構高いよー? レオにはよく似合ってるけど。凄い
可愛いよー、見なくていいのラフ?」
「うるっせぇ見ねぇよボケ!!!」
 ドナテロの方を見もせずに吐き捨てるラファエロに、ドナテロは笑って言ってやる。
「男の嫉妬はカッコ悪いぞ」
「やっかましいッッ!!!!!」

 とうとうサンドバッグに穴が開いた。





     END





ウサレオなのにやっぱり最後は亀兄弟……!!(爆)
例えどんなレオ受けであろうと確実にラフ→レオは外せないようです。
つかそうやってイライラしてるラフが大好き(酷)。
そしてこれ以降レオはウサギさんからお呼ばれする度に着流し着ていくようになったとか(笑)。

絵茶でえびす南瓜さんより交換条件で(笑)素敵挿絵を描いて頂きました!!  元絵が見たい方はこちら♪