<Happy Scent>



 喉の渇きを覚えて目を覚ましたレオナルドは、布団の中で僅かに身じろぎした。枕に
押し付けるようにしていた頭を動かして顔を上げると、鼻腔を芳潤な香りが擽ったので、
疲労の所為で重い瞼を無理矢理押し開ける。
 全身で熱を交感した身体はまだ内に気だるい疲れを残して疼き、殺し切れずに声を
上げ続けた喉は息を吸う度に引き攣れるように痛んだ。
「…………水……」
 先の見えない部屋を手探りで進むかの如く中空に伸ばされた腕を、ひんやりとした
手が掴んだ。まだ昨夜の熱が抜け切らないレオナルドはその手に指を絡めて自分の
頬に押し当て、心地良い冷たさにうっとりと吐息を洩らす。
「……きもち、い…………」
 緩々と目を閉じ再び眠りに落ちそうになったが、僅かに苦笑する気配に薄っすらと
目を開いた。
 最初に目に入ったのは、己が捕まえている手の指先。焦点が合わずにぼんやりと
ぼやけるそれを通り越して、ゆっくりと視線を上へと辿らせて行く。
 掌。
 手首。
 腕。
 肩。
 それから――少し困ったような、笑顔。
「…………ラフ?」
「よぉ。目ェ覚めたか」
 漸く覚醒して目を瞬かせるレオナルドに笑い掛け、ラファエロは中途半端な姿勢を
正して布団の上に膝を付いた。その拍子に絡めていた指が擦り抜けて、無性に寂しく
なるのにレオナルドは気付く。
「…………」
「レオ?」
 返事をせずに再び布団に潜り込もうとすると、ラファエロの冷たい手が額に触れて
一瞬、動きを止める。
「どうした?」
 そうして彼がいつになく優しい笑顔で問うて来るものだから、レオナルドは観念して、
掠れた声で言葉を紡ぐ。
 ああ、喉が痛い。
「…………どこ……行ってたん、だ……?」
 暖かい寝床から抜け出して、そんなに手を冷たくさせて。
 そう言うとラファエロはにこりと笑って、レオナルドの頭を撫でた。
「どこも行ってねぇよ、水取って来ただけだ」
 ほら、と枕元から水の入ったグラスを取り上げレオナルドの視線に晒す。その途端、
先程から感じていた甘い香りが強くなるのを感じた。
 汗をかいたガラスの表面が部屋の明かりを反射し、僅かに煌めきながら滑り落ちて
ラファエロの指を濡らす。
 それを見て、レオナルドはああ、と思う。
 きっと、冷蔵庫の奥に入れてあったミネラルウォーターのペットボトルを開けたのだ。
あれは一番大きいサイズのもので、扉には入れられなくて横にしてあったから、きっと
掴み出すのも大変だったに違いない。指先をすっかり冷やしてしまう程に。
「喉渇いたんじゃねぇかと思ってな。起きられるか?」
「……ありがと……」
 礼を言いつつも一向に身を起こそうとしないレオナルドに、ラファエロはほんの少し
眉を顰めて身を乗り出した。自分で起き上がる気力も無いのだろうか。
 掌の下の肌は、普段よりも些か熱い。
 暫しの逡巡の後、ラファエロは手の中のグラスを口に運び、レオナルドの首の下に
手を差し入れた。身体に負担が掛からないように優しく肩を抱いて上体を起こさせ、
薄く開かれた唇にそっと口付けする。
「ん…………ぅ……」
 塞がれた口腔内に甘い水が流れ込み、レオナルドは必死でそれを飲み干した。
 渇き切った身体は貪欲に水を欲して、まだ足りないと訴える。ラファエロの口の中に
残る水さえも惜しくて、夢中で舌を絡めた。
 ラファエロは未だかつてない事態に一瞬目を丸くするも、すぐに笑んでレオナルドに
応える。
 滅多に無い僥倖なのだから、堪能させて貰ってもバチは当たらないだろう。





 グラスの水が空になるまで続けて、ラファエロはレオナルドを元通り布団に横たえた。
レオナルドはどこかぼんやりと天井を見上げている。
 やはり、熱があるのだろうか。
「大丈夫か? 辛いなら……」
 しかし、レオナルドはゆっくりと首を振った。視線をラファエロに投げて微笑む。
「ううん……違うんだ。何だか、――――みたいだな、って……」
「? 何が、何に似てるって?」
 上手く聞き取れなくて首を傾げるラファエロに、レオナルドは穏やかな声で囁いた。

 夜の暗がりで光る、熱の篭った瞳は時々、怖いくらいなのだけれど。
 朝の明るさの中では、こうしてくすぐったいくらい優しく気遣ってくれるから。
 彼がくれる一杯の水が、他のどんなものよりも甘く、馨しく感じて。
 その香りがまるで、愛されている事の証明のように思えるのだ。

「……Early morning tea……みたいだ」





     END





12000HITリクエスト「甘々なラフレオ」でした!
レオが妙に素直なのは半分寝惚けてるから(爆)。ここぞとばかりにラフやりたい放題(笑)。
「Early morning tea」とは朝仕事に出掛ける前の夫が妻に手ずから入れてあげると言うベッドで飲む紅茶の事です。
何だそのラブラブ夫婦シチュ!! と萌えたので早速ネタにwww
ラフは後でエイプリル辺りに詳細教えて貰って一人でドキドキしてりゃいいです(爆)。
リクエスト下さった翔様のみお持ち帰りフリーとさせて頂きます♪
12000HITありがとうございましたー!!(敬礼)