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「「「「最初はグー! じゃーんけーん……ホイ!!」」」」

 真夜中のNYシティに、不似合いな明るい声が唱和した。



     <Harvest Moon>



 場に出されたのは、(指が三本しかないのでわかりにくいが)グーが三つとチョキが
一つ。つまり、チョキの一人負け。
「決まりだな」
「じゃ、鬼よろしくね」
「ホントレオってジャンケン弱いよねー♪」
「……また俺か……」
 口々に言われて、チョキの主――レオナルドは、己の手を見下ろして溜息を付いた。
もう、これで三回連続である。
「まあ、負けは負けだしな。ほら、数えるぞ」
 マスクを回して目隠しをし、腕を組んで数を数え出すレオナルド。弟達が即座にその
場から逃げ出す。
「……アレは気付いてないね」
「絶対最初にチョキ出すってこと?」
「そうそう」
 こそこそと言い合って、忍び笑いを洩らすドナテロとミケランジェロを追い越しつつ、
ラファエロはやはり小声で注意をした。
「おい、余計な事言うなよ。気付かれるだろ」
 おっと、と言う顔をして口を押さえる二人。優秀な兄に勝てる、数少ない手段を失う
のは確かに勿体無い。
 ニヤリと笑い合いながら、三人はそれぞれ隠れる場所を探して分散した。





 手頃な場所に落ち着いて、そこでふと気付いて空を見上げた。大きな白い光が目に
飛び込んで来て、ああそうかと思う。

「妙に明るいと思ったら……」
「昇ってたのに気付かなかったよ」
「今日は満月かぁ」

 広いNYの全く違う場所で、三人は図らずも同じことを呟いていた。
 そして、連想される人物の顔すらも。

「……けっ。見下ろしやがって、気に入らねぇ」
「遠いなぁ……やっぱり」
「やさしそうなとことか、そっくり」

 それは例えば、どう足掻いても勝てない気に食わない存在で。
 それは例えば、近いようで遠い手の届かない存在で。
 それは例えば、いつも穏やかに見ていてくれる優しい存在で。

 持ち前の正義感と責任感で時に自分たちを導き、叱咤し、受け止めてくれる。時に
それが疎ましく思えても、それでも心のどこかに安心がある。

 それを認められずに、反発して、何度も後悔をして。
 それを理解して、依存して、望んだものは手に入らなくて。
 それを気付かずに、甘えて、それに満足して。

 そうして、彼の心の内を知ろうともしなかった。
 彼の心はまるで満ちた月が欠けるように磨り減って、そして自分達の前から一度は
消えた。追い掛けても、けして追い付けない所へ消えてしまった。
 夜に生きる自分たちには、月こそが太陽だったのに。
 彼が姿を消してからの世界は恐ろしい程に空虚で。それは失う事など考えもせず、
永遠に変わらず傍にあると愚かにも信じ切った代償。完璧でない事などわかっていた
筈なのに、上辺ばかりを見ていた報い。
 もし、あの日、あの時に。彼の心を少しでも慮る事が出来ていたなら、何かが違って
いたのだろうか。
 彼のいない日々に、何度そう自問を繰り返したか知れない。

 何度も追い掛けようと思った。
 何度もわかりたいと思った。
 何度も抱き締めたいと思った。

 けれど、それをするべき時を逃してしまった自分たちにはもうそれは許されなくて。
出来たのは、再び月が満ちるのを待つ事だけ。ただひたすら待つ事が、自分たちに
科せられた罰なのだと。それがどれだけ己の無力さや愚かさを思い知る事になっても。



「…………」
 ほんの僅かに吹いた風が身体を撫でて、肌寒さに掌を当てる。同時に、彼がそこに
触れた時の事を思い出して、苦笑いのような笑みが零れた。
 自分達の月は満ちて、以前よりも穏やかな輝きを湛えて戻って来た。それはとても
喜ばしい事なのに、心のどこかで残念がっている己に気付いたからだ。
 手を差し伸べたかった、と言うのが正直な気持ち。
 しかし、それはやはり、何も出来なかった自分たちの罰だったのだろうと思う。彼を
待つ苦しさに耐える事が。
「……でも、」
 彼はもう、自分たちの傍にいる。以前と変わらぬ笑顔で、ここにいる。それならば。
「もう、二度と」
 離さない。離れない。
 追い付けないのなら、追い掛けさせればいい。
 どれだけ走っても、決して遠くならない空の月のように。
 優秀な彼なら、どこに隠れてもきっと、見付け出してくれるだろうから。

 耳を澄ませば、微かな足音が近付いて来る。
 名前を呼ぶ声が、すぐ傍で。
 望月を背にした微笑みが、光よりも眩しくて目を細める。

「……みーつけた」

 ほら、こんな風に。





     END





大分前に月を見た時に思い付いたネタ(笑)。
完成まで随分時間が掛かってしまいましたがやっとUP出来ました……orz
時間に追われて推敲どころかあとがきも書かずに上げるとか物凄いことしててすみません(爆)。