つい昨日まで住んでいた所なのですから、きっと気のせいでしょう。
 そう思って、レオナルドは我が家の扉を開けました。

「…………え…………!?」

 そして次の瞬間、レオナルドは呆然と立ち尽くしてしまいました。
 だって。
 家の中が、メチャメチャだったのです。

「うそ……なんで!?」

 慌てて奥へ走って見るものの、やっぱり玄関と同じでどこもかしこも壁が崩れたり、
ひび割れたりして見る影もありません。
 おまけに、確かに昨日まであったはずの家具や食器や先生の本やオモチャなどが
一切合切無くなっています。まるで、長い事誰も住んでいなかったかのようです。
 レオナルドは急に恐ろしくなって、それでも必死に涙を堪えて声を張り上げました。

「ドニー! ラフ! マイキー! どこ!? みんないないの!?」

 さっき先生といた知らない人たちの所にいなかったのだから、きっと家で留守番して
いると思っていたのに。
 しかし家の中にあるのは瓦礫の山ばかりで、呼び声に答える者は誰もいません。

「そんな……」

 それでは、弟たちは一体どこへ行ってしまったのでしょう。
 レオナルドの大事な大事な、可愛い弟たちは一体どこへ。
 ぎゅうっと胸を締め付ける焦燥感により一層不安を募らせて、レオナルドはもう一度
叫びました。

「みんなぁー!!」
「……レオ?」

 不意に背後から誰かの声が聞こえて、レオナルドは振り向きました。開け放していた
扉の前に、ラファエロが立っていたのです。
 途端に溢れ出す涙を抑え切れず、レオナルドはラファエロに飛び付きました。

「ラフ……ラフッ!!」
「レオ! 良かった、無事だったんだな! 心配させやがって……」
「……ラフ?」

 優しく抱き止めてくれたラファエロでしたが、何だか様子が変です。声がとても低いし、
体も腕もレオナルドよりずっと大きいのです。
 奇妙に思って顔を上げると、ラファエロだと思った人影は、さっきのラファエロに良く
似た男の人でした。レオナルドは何だか急に恥ずかしくなり、急いで彼から離れようと
しました。幾ら似ているとは言え、こんなに大きな人とラファエロを見間違えるなんて。

「レオ?」
「ご……っごめんなさい! おれ、ラフだとおもって……」

 顔を真っ赤にしてしがみ付いていた腕を離すけれど、男の人はニヤニヤ笑っていて、
一向に手を離してくれそうにありません。どうしてでしょう、ちゃんと謝ったのに。

「あの、おにいちゃん、はなして……」
「お兄ちゃん、ねぇ。お前にそんな風に呼ばれるのも中々悪くねぇが……小せぇ頃の
オレと思わず間違えるくらい、この頃のお前ってオレの事考えてたんだな?」
「お、おにいちゃ……ッ!?」

 急に勢いよく抱き上げられて、レオナルドは驚いて目を瞑りました。
 そして次に、唇に触れた暖かい感触にびくりと身を竦ませます。

「んむぅっ!?」

 体中が痺れるような感覚に、レオナルドは思わず硬直し両手をきつく握り締めました。
こんな感覚初めてで、他にどうしたらいいかわからなかったのです。
 驚きと戸惑いで固まっていると、やがてゆっくりと暖かいものが離れて行きました。

「嬉しい事言ってくれたご褒美な♪」

 そう言って笑う声も顔も、しかし今のレオナルドには届いていませんでした。

「…………………………………………」
「…………お、おい、レオ?」

 慌てて腕の中のレオナルドを抱え直すラファエロですが、時既に遅く。
 全身を岩のように硬直させたレオナルドは息をするのもやめていたようで、目を閉じ
腕を縮こまらせた姿勢のまま――落ちていました。

「げ、ちょ、レオッ、おい、し、しっかりしろ!!」
「………………きゅぅ。」
「ぎゃああああああああああああああレオおおおおおおおおおおッ!!!」





 ――結局、乱暴すぎるラファエロの心肺蘇生法で辛うじて息を吹き返したレオナルド
でしたが、元の姿に戻るまで決してラファエロには近付こうとはしませんでした。
 当然ながらラファエロは家族全員にこっ酷く叱られ、レオナルドが元に戻っても暫く
傍には寄らせて貰えなかったとか。

 めでたしめでたし(?)。





     −ラファエロ(犯罪者)END−