三本の罠

「少し、いいか……」
「はい?」

 声を掛けられて振り向いたシチロージは、意外な相手の姿におや、と首を傾げる。
 そこにいたのは赤いコートに二振りの刀を背負った剣士、キュウゾウ。
 寡黙過ぎて時々口が利けないのではないかと思ってしまう程の彼が、己から他人に
声を掛けるとは珍しい事もあるものだ。明日は雨かも知れない。

「これはキュウゾウ殿。あたしに何かご用ですかい?」

 こくり、とキュウゾウは頷き更に頼みがある、と言った。そのいつになく真剣な様子に、
シチロージは明日の雪を確信した。


「……お?」

 フンフンと鼻歌を歌いながらがしゃんがしゃんと森を闊歩していたキクチヨは、茂み
からちらりと覗いた特徴ある金髪に目を止めた。

「モモタローじゃねぇか」

 今は皆カンベエの指示の下、あちこち走り回っている時だと言うのにどうやらこんな
所で休んでいるらしい。キクチヨはイタズラを思い付いた子供のようににへ、と笑うと
そっと茂みに近付いた。見えない背中に向かって思い切り体当たりを仕掛ける。
 葉に隠れているがガスッ、といい手応えあり。

「やいモモタロー! こんな所でサボってるとカンベエに言い付けるでござるよ!!」

 わはは、と相手を両手で抱え込むように抑え付け茂みから引き摺り出して、

「え」

 キクチヨは凍り付いた。

「……こんなに上手く行くとは」

 キクチヨがその腕に抱えていたのはシチロージではなく、彼と同じように髪を結った
キュウゾウ。

「――――ッッ!!??」

 キクチヨは声にならない悲鳴を上げて勢い良く後退り、木にぶつかって尻餅を付く。
対するキュウゾウは足早に近付き、顔の横にダン、と手を付いた。逃げられない。

「な、ちょっ、おまっ、何で……っ!!」

 断続的に蒸気を噴き出すキクチヨに、キュウゾウは結い紐を解いてニヤリと笑った。

「お主の方から……抱き付いて来てくれるとは、な」

 あちこちに葉っぱをくっ付けながら笑うその顔は、いっそ恐ろしい程に綺麗で。
 蛇に睨まれた蛙のように、動けないキクチヨはかけもしない冷や汗を流す。

「あ、あれは、俺はモモタローだと……!!」
「……かたじけない」

 ちう、と音を立てて頬に口付けられて。
 キクチヨは森中に響くような情けない悲鳴を上げた。


「おや、シチロージ殿。どうかなさったのですか?」
「いや……何か取り返しの付かない事をやっちまった気がするんでげす……」



     終



そう言えばシチさんとキュウは金髪同士だなぁ、と思い。
でもキクの字シチさんには懐いてもキュウには懐かなそうだなぁ、と思ったら
こんな事になりました(笑)。
キュウゾウはキクチヨを可愛がりたいのに(変な意味でなく)、無愛想宇宙人振りが
災いして苦手意識を持たれてると良いです。