「何だよ! オイラはチャンピオンなんだからねー!」
「いつまでもしつけぇぞテメェ! 未来じゃ関係ねーだろ!!」
「あーあ、まーた始まった」
「こら二人とも! やめないか!」
「……やれやれ……」
 いつものように修行を始めて、いつものようにただの乱闘へと発展する。
 そんないつも通りの光景を面白そうに眺めて、この広大な館の若き主――コーディ・
ジョーンズは傍らの執事ロボット・サーリンに言った。
「タートルズって仲がいいよね?」
「はぁ……コーディ様がそう仰られるのでしたら、そうなのでしょう」
「うん、とっても仲良しだよ。羨ましいな」
 その笑顔がやたらとキラキラしているのに気付いて、忠実なる執事は中空に視線を
投げて溜息を付いた。
 これはまた、何か起こるに違いない。



     <Let’s Scramble!>



「ふわぁあああ、おはよ〜……」
「おはよ」
「おう」
「おはよう、息子よ」
「おはようございます」
「おはよう、マイキー」
 欠伸と共に大きく伸びをしつつリビングに下りて来たミケランジェロに、既に朝食の
席に着いていた家族が挨拶を返す。寝惚け眼で定位置の席に座ったミケランジェロは、
スプーンを握り締めてから漸く返事が一つ足りない事に気付いた。
 ドナテロにラファエロ、スプリンターにサーリン、そしてコーディ。
「……あれ? レオは……?」
 全員の顔を見回して首を傾げるミケランジェロ。
「実は、まだなんだよ。珍しい事に」
「……ちょっと見て来るわ」
 ドナテロが持っていたカップを置いたのを合図にしたかのように、ラファエロが席を
立つ。
 部屋を出て行く時は普通に歩いていたが、戻って来た時は全力疾走の勢いだった。
飾ってあったツボを倒しかけて、既の所でサーリンが破砕を阻止する。
「お……おい!! 大変だ、レオがいねぇ!!」
「「ええッ!!?」」
「「「…………」」」
 ラファエロの報告に対する全員の反応は、綺麗に二分されていた。
 がたん、と椅子を蹴立てて立ち上がるのはドナテロとミケランジェロ。それに対して、
スプリンターとコーディ、サーリンは微動だにしない。勿論、サーリンは床擦れ擦れで
ツボを支えていたので動きようが無かったのだが。
 その余りにも余裕を感じさせる態度に、タートルズの視線が怪訝な色を帯びる。
「先生……?」
「何でそんなに落ち着いてるの?」
「まさか、何か知ってるんですか!?」
 そんな息子たちの詰問に近い質問にゆるりと微笑むと、スプリンターは杖を突いて
席を立った。

「では、そろそろ修行を始めるとするかの?」





 訳知り顔のスプリンターとコーディに車で連れられて三人が辿り着いたのは、何やら
テーマパーク風のエリアだった。
 しかし、その敷地の広大さの割に人気が全く無くがらんとしているのが何とも奇妙だ。
「ここはね、明日オープン予定のレジャーランド。うちの会社も技術面とかで色々出資
しててね、今日はモニターを兼ねたテストを頼まれてたんだ」
「うわー、すっごーい貸し切り状態!! 遊んでいいのオイラたち!?」
「うん、勿論。ただし……遊び方には一つ条件があるけどね」
「条件?」
「勿体ぶらずに早く言えよ!」
 興味深そうに辺りを観察していたドナテロと、苛立たしげに腕を組んだラファエロが
同時にコーディに視線を向ける。その温度差の格段に違う視線を受けて、コーディは
苦笑いをしながら背後の巨大スクリーンを指で指し示した。
「それじゃ、説明はレオにやって貰おうかな」
「え?」
「そりゃどういう……」
『ハーイ、皆! 調子はどう?』
「「「スターリー!?」」」
 コーディの言葉に目を瞬かせたその時、スクリーンにスターリーの顔が映し出された。
どこかの部屋にいるらしい彼女はコーディに向かって嬉しそうに手を振る。
『レオが目を覚ましたわ。準備はオッケーよ、コーディ♪』
「ありがとうスターリー。このお礼は必ずするから」
『んっふふ、デートの約束、忘れちゃ嫌よ?』
「わかってるって。じゃ、頼むよ」
『はーい♪』
 にっこり頷いて画面から消えるスターリー。
 その後ろから現れた人物の姿に、三人は思わず瞠目して画面を注視した。
「「「レオ!!!」」」
『……ここ、どこだ? ――ッ!? ちょ、スターリー、これは一体!?』
 部屋の真ん中に据えられた椅子に腰掛けているのは、確かに彼らの兄レオナルド。
だがその腕と脚とは椅子にしっかりと固定されていた。今の今までその事に気付いて
いなかったのか、レオナルドが拘束から抜け出そうと慌てて身を捩っている。
 すると画面の端からスターリーが再び現れ、レオナルドに近付いた。
『落ち着いて。ちょっと協力して欲しい事があるのよ』
『協力だって!? 一体……』
『あっちのカメラに向かって、この紙に書いてある内容を読み上げるだけでいいの』
『……何でそれだけで俺はこんな目に遭わなきゃいけないんだ……?』
 酷く不満気だったが、それでもレオナルドは了承したようだった。スターリーが持つ
紙面を横目で見ながら文字を読み上げて行く。
『えっと……「親愛なる弟たちへ。今日皆にここに来て貰ったのは他でもない、今日の
修行の為だ」……って事は皆もここにいるのか? 「この施設は最新式ホログラムの
集大成で、今までに無いリアルなバーチャル体験が出来る。修行には持って来いだ」
そうなのか……俺も是非参加したいところだな。「ただし、今回の修行はレース形式。
決められた順路を通って、一番早く俺のところまで辿り着いた者には賞品が出る。で、
賞品は」……ッ!?』
 そこまで読んだところで、急にレオナルドの口が止まった。目は大きく見開かれて、
頬は僅かに染められている。
『ほら、ちゃんと読んでよ。そこが重要なんだから』
『だけど……っ、この(セクシーかつキュートにv)って言う指定は何なんだ……!?』
『そのままの意味だってば。でないとそれ外してあげないわよ? ほら早く!』
『う…………「しょ、賞品は……お、俺の大事なものを、あ……あ・げ・るv」って何だよ
これはああああああッ!!!』
『はいご苦労様。可愛かったわよー?』
 己の発言の余りの恥ずかしさに、拘束されているのも忘れ真っ赤になって身悶える
レオナルド。上機嫌で紙を折り畳んで懐に仕舞い、スターリーはカメラに近付いた。
『じゃ、そう言う事だから。頑張ってね、皆ー♪』
 酷く可憐な笑みを最後に、スクリーンが沈黙する。それを見届けて、コーディは皆を
振り返った。
「スターリーったら変なアレンジ加えて……と言うわけなんだ。だから、皆……あれ?」
「「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」」」
 さっきまでしっかり二本の脚で立っていた筈の亀たちが、いつの間にか思い思いの
方向を向いてガックリと膝を付いていた。まるで集団貧血でも起こしたかのような光景
である。三人とも全身をぷるぷると小刻みに震わせ、ラファエロに至っては口の辺りを
押さえた指の隙間からぼたぼたと真っ赤な血を流していた。
「ど、どうしたの皆!? 大丈夫!?」
「皆さんお加減が宜しくないようで。今日の修行は中止しますか、スプリンター先生?」
「ふぅむ、仕方ないのう」
 顎を撫でつつ言ったスプリンターの言葉に、崩れ落ちていた息子たちが慌てて身を
起こして叫んだ。その勢いたるやバラエティ番組のゲスト芸人のようである。
「「「ちょ、待っ……!!! 大丈夫ですからやらせて下さい先生――――!!」」」
「……だ、そうじゃ。いつもこう熱心だと嬉しいのじゃがのう」
 サーリンに指で合図を出して、スプリンターはやれやれと溜息を付いた。サーリンは
施設の地図を広げてコースの説明を始める。
「スタート地点は今いる入り口広場。ここから逆時計回りに進んで、最終的にこの中央
タワーの最上階に一番に辿り付けばOKです」
「……そこにレオがいるんだな?」
「はい」
「で、道中はホログラムで色んな罠が仕掛けてあるってことだね」
「障害物レースかぁ。うー、オイラ俄然やる気出て来たー!」
 地図を検分しながら頷くドナテロの台詞に、血が騒ぐのかミケランジェロがうきうきと
足踏みする。
 そんな弟をうざったそうに見てラファエロが軽く肩を竦めた。
「けっ。ドニーはともかく、いっつも修行サボってるテメェにゃ負ける気がしねェな」
「あ、そゆ事言っちゃう? へっへーんだ、負けて吠え面かかなきゃいいけどねー♪」
「言ってろ! レオは渡さねぇからな!!」
「悪いけど、今回ばかりは僕も手加減しないよ?」
「え、ドナちゃんってば手加減してたの? 知らなかった〜!」
「「「…………ふふふふふふふふふふふ…………」」」
 表面上はにこやかに笑いながら、しかし三者の間に見えない火花が激しく散る。
 それも無理からぬ事であろう。
 今や彼らは血を分けた兄弟ではなく、いや確かに兄弟ではあるのだが、気分的には
お互い最も油断のならぬ、いけ好かない恋敵なのである。
 幼い頃より兄であるレオナルドを愛し続けて十数年。
 レオナルドがどこぞの馬の骨に捕まったりしないよう、時には協力してレオナルドを
守って来たが、その結果今まで彼は誰のものにもならなかった。
 そのレオナルドが、とうとう誰かの物になろうとしているのだ。
 しかも候補が自分かも知れないとあっては、必死にならないわけが無い。
「……わぁ、何か予想以上にやる気だね……」
 そんな三人が醸し出す空気にうそ寒いものを感じながら、コーディは業務用である
反重力ホバークラフトに乗ってスイッチを入れた。
「そ、それじゃ僕は一足先に戻ってるから。後は宜しくお願いします先生」
「うむ。楽しんでくるのじゃぞ」
「行ってらっしゃいませ、コーディ様」
 優しく微笑むスプリンターと丁寧にお辞儀をするサーリンに見送られ、中央タワーの
方へ去って行くコーディ。その背中が見えなくなってから、スプリンターは未だに睨み
合いを続けている息子たちに向き直った。
「ほれお前たち、いつまで遊んでおる! さっさとスタート位置に付かんか!」





 ところで、レオナルドは不機嫌だった。
 朝早くに部屋の戸がノックされ、ドアを開けた瞬間妙な霧を顔に吹き掛けられて再度
眠りに落ちた。ガンガンする頭を振ってやっと目覚めてみれば、自分の体は見知らぬ
部屋で拘束されていて。おまけに碌な説明もされぬままに意図のわからない文章を
音読させられた上、嫌に恥ずかしい行為を要求された。
 そこまで不当な扱いを受けていて尚レオナルドが怒り出さないのは、偏に信頼する
仲間が相手だったからなのだが、それでも納得行かないものは納得行かない。
 更に言えば、要求を呑まなければ拘束を外さないと言った癖に、未だに彼は自由に
なっていない。
 レオナルドは溜息を付いて、コンソールパネルに腰掛けている少女に言った。
「……スターリー。もう協力しただろう? いい加減これ外してくれよ」
「悪いけど、もうちょっと我慢してくれるかしら」
「おい……幾ら俺でも怒るぞ?」
 若干眉根を寄せて睨むと、スターリーは苦笑いして肩を竦める。何事か言おうともう
一度彼女が口を開きかけたその時、しゅん、と音を立てて部屋の扉が開いた。そこに
見慣れた少年の姿を見付けて、目を丸くするレオナルド。
「コーディ!」
「ありがとう、スターリー。でもあのアレンジ……ってまだレオ縛り付けてるの?」
 スターリーを見て、それからレオナルドに視線を移して、コーディは首を傾げる。
「……ホントはもう解放して貰える筈だったんだけどな……」
「だって、レオって忍者でしょ? コーディが来る前に逃げられちゃ困るもの」
 言いながらコーディに近寄って、スターリーは彼の肩をポンと叩いた。
「じゃ、私はこれで。デートコース選んどくからね!」
「う、うん……楽しみにしてるよ」
「ふふ。じゃ、ごゆっくりー♪」
 部屋を出て行くスターリーに弱々しく手を振って、コーディはレオナルドに駆け寄った。
椅子の後ろにあるボタンを押すと、レオナルドの戒めが外れる。
 漸く自由になったレオナルドは立ち上がり思い切り伸びをした。椅子の上で寝ていた
所為か、体が少し痛む。
「っはー……酷い目にあった……」
「ごめん、レオ。全部僕の我侭の所為なんだ」
「コーディ? それって……」
 暗く沈んだ声に、伸ばしていた腕を僅かに下ろして振り返る。胸の前で両の拳を握り
締めたコーディの顔がいつになく寂しそうで、レオナルドは問い質そうとしていた口を
噤んだ。
「……僕、兄さんが欲しかったんだ」
 コーディが視線を足元に落としたまま、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「僕は兄弟もいないし、両親の事もあんまり覚えてない。皆は勿論大切な家族だけど、
でも時々。皆が楽しそうにしてるのを見ると、羨ましくなるんだ。皆は元々、この時代の
住人じゃない。きっといつか、祖父ちゃんと祖母ちゃんのいる昔へ帰っちゃう」
「…………」
「だから……一度だけ、一日だけでいいから、本当の兄さんになって欲しかったんだ。
二人の孫じゃない、僕自身の」
 そこまで聞いて、レオナルドは理解すると同時に理由と原因にも思い当たった。
 コーディの両親のどちらか――つまりケイシーとエイプリルの子供がどんな人物で
あるのかは知らないが、それでもコーディが二人にそっくりなのはよくわかる。そんな
コーディと特別親しくしていたのはドナテロとラファエロだ。
 無論二人とも彼ら兄弟の共通の友人ではあるが、趣味や嗜好の気が合う者同士が
より親しくなるのは当然と言えた。
 二人の孫である事を誇りに思うコーディだからこそ、余計に無意識下のその感覚に
気付いてしまったのだろう。
 少年の複雑な葛藤を目の当たりにして、レオナルドは暫しの逡巡の後に微笑んだ。
「……まあ、そうだよな」
「え?」
 そのどこかのんびりした口調に、コーディが反射的に顔を上げる。レオナルドはその
様子を見て取って、腰に手を当てて天井を見上げた。
「ドニーもラフもよく突っ走っちゃって周りが見えなくなっちゃうし、マイキーの性格じゃ
兄さんってのもちょっと向いてないだろうし……」
「…………」
「その点、俺ならずっと『兄』だったわけだからな。今更『弟』が一人増えたって構いや
しないよ」
 緑の目を見詰めてにこりと笑い掛ければ、ぽかんとしていた表情が見る見るうちに
喜びの笑顔に変わって行く。
 子供特有の無垢な笑みに、少しくすぐったいような気持ちになる。
「レオ……い、いいの?」
「当ったり前だろ? 一日なんてケチな事言わずに、ずーっと『兄弟』でいればいいじゃ
ないか」
 言って、色鮮やかな赤毛を優しく撫でてやった。

「――ありがとう!」





「へっ、この程度ちょろいぜ!」
 底が見えない程深い縦穴の中に、僅かに立てられた小さな足場を飛び移りながら、
ラファエロは肩越しに背後を振り返った。
 すぐ斜め後ろにつけているドナテロがにやりと笑ってペースを上げる。
「後ろを気にするなんて余裕じゃない?」
「ご心配には及ばねぇよ……ッ!?」
 突然頭を踏み台にされて、大きくバランスを崩すラファエロ。
「はい油断大敵、おっ先に〜!!」
「野郎! 待ちやがれマイキー!!」
 慌てて足場にしがみ付いたラファエロの視界に、既にミケランジェロの背中は遠い。
相変わらずふざけっ放しの弟に青筋を立てつつラファエロは二人の後を追った。





「じゃあ、これ先生の案だったのか?」
「うん。僕が事情を話して一日レオを貸して欲しいって頼んだら、『弟たちに邪魔されん
ようにせんとな』って言ってくれて。本格的な修行もしたいからって」
 朝食を食べ損ねたレオナルドの為に、コーディはまずレストランに向かった。シェフ
ロボットが既に配備されているので利用には困らない。
 そこで食事をしながら今回のいきさつを説明する。
「そしたらスターリーが物凄く乗り気になっちゃってさ。細かいところは全部彼女の立案
だよ。実際、皆凄くやる気満々だったしね」
「…………う……」
「どうしたの?」
 食事の手が止まったレオナルドの顔を覗き込むと、顔を赤くして俯いてしまう。
「いや……あの、賞品とかってのも……?」
「うん、スターリーのアイデアだよ?」
「そうか…………どうしろって言うんだよ、もう……」
 恥ずかしい台詞を強要された事を思い出して、レオナルドは絶望的な溜息を付いた。
 レオナルドの困惑の原因がわからないコーディは首を傾げつつも、気を取り直して
ポケットからこの施設のパンフレットを取り出してテーブルに置く。
「その事なんだけどさ。こういうのってどう?」
「……?」





「ちょっと難易度上がって来たね。マイキー最近運動不足だし、きついんじゃない? 
おっと。リタイアするなら今の内だよ?」
「冗談やめてよねー! 折角レオとアレやらこれやら出来るかもって大チャンスに棄権
なんて男が廃るっての!! ……ぅわ!」
 物凄い勢いで上下左右から襲ってくる柱を紙一重で避けながら軽口を叩き合う。
「……そういやラファエロどうしたんだろね? さっきから姿全然見えないけど」
「ま、ライバルは少ない方がいいじゃない?」
「それもそうだね。ラフみたいな変態相手じゃレオがかわいそ……ってきゃー!!」
 突然片足を何かに取られミケランジェロは悲鳴を上げて転んだ。慌てて振り返ると、
足首をガッチリと掴むラファエロの手が。
「ようミケランジェロ……誰が変態だってぇ……!?」
「や、やっだなぁもう。本気にしないでよー!」
「……さっきレオの台詞に鼻血出してたもんね。そりゃ変態だよね」
「テメェらだってしっかり反応してただろうが!!」
「って言うかちょっとドニー! いつの間に先に進んでるのズルイよ!!」
 既に遠く離れた位置でぼそりと呟いた台詞を耳聡く聞き付けて二人が叫ぶ。しかし、
ドナテロはにっこり笑って手を振った。
「悪いけどレオナルドは僕のものだからね! 手加減しないって言ったろ?」
「ちっ、仕方ねぇお前ボコるのは後な! ドニーに負けてたまるか!!」
 さっきの仕返しとばかりにミケランジェロを踏み付けて、ラファエロが走り出す。
 ミケランジェロは顔を青褪めさせながら、それでも襲い来る柱から逃げる為に慌てて
身を起こした。
「オイラボコられんの確定!? もーだからラフは変態だって言うんだよ!! 粘着! 
ガムテープ!!」
「誰がガムテープだ!!!」





「レオー! ほら、これやってみようよ!」
「ジェットコースターに乗りながらシューティング? へぇ、面白そうだな」
 食事を終えて二人が向かったのは更に階下の室内ゲームセンターエリア。自分の
手を引いて無邪気にはしゃぐコーディに、レオナルドは思わずふわりと微笑んだ。
 目下最大の心配事が取り敢えず解決している事もあって、今のレオナルドは非常に
余裕がある。既にあちこち遊び回っている事も手伝って、随分ノリも良くなっていた。
「レオナルドなら楽勝じゃない?」
「どうかな。……ま、弟にいいとこ見せなきゃいけないよな、兄としては」
「へへ……」
 照れ臭そうに笑って、コーディがコースターの乗り場へ駆けて行く。その後を追って、
レオナルドはある事を思い付いた。
「なあ、コーディ。一つ提案があるんだけど」





 最後のエリアを脱出して、三人がばったりとその場に倒れ込む。全身汗びっしょりで
呼吸困難に陥っていた。最早起き上がる事すらままならぬと言った雰囲気である。
「……はっ、はっ、……ちょ、も、信じらんない……何、あの鬼難易度……」
「ぜぇ、はぁ……ま、まさか……インディ・ジョーンズ張りのトラップが来るとはね……
全く予想、外だよ……」
「……つか、確実にオレらを殺しに来てる、だろアレは……!!」
 それもその筈、彼らを待ち受けていた最終関門はドナテロの言葉通り、どれもこれも
映画『インディ・ジョーンズ』シリーズを髣髴とさせるものばかりだったのだ。
 つまり狭い坂の上から道幅一杯の大岩が転がって来たり、吊り天井が落ちて来たり、
床や壁のあちこちから巨大な刃物が迫って来たり、と実に多種多様である。因みに、
これらの仕掛けは紛う事無き対侵入者用『殺人』トラップ。普通の人間なら死んでいる
ところだ。
「……ホント、よく生きてたよねオイラたち……」
 呟いて、ミケランジェロは目だけで中央タワーを見た。ドナテロとラファエロも思わず
そちらに視線を投げる。
 最初はレオナルド争奪戦と言う名目で争って来た彼らだったが、数々の試練を共に
乗り越えた事で互いに競争心は薄れて
「じゃ、レオはオイラが貰ったからね!!」
「「あぁッ!!!」」

 いなかった。

「卑怯だよマイキ―――――――――――――――――ッ!!!」
「待てこらあああああああああああああああああ!!!!!」
「へっへーん油断大敵って言ったでしょー!?」
 猛ダッシュでタワーに向かうミケランジェロを必死で追い掛けるラファエロとドナテロ。
 タワーのエントランスを抜け、階段を駆け上る。
 最上階は二十階。いつの間にか三人は並走していた。
 既にあちこち駆けずり回って悲鳴を上げる脚を叱咤し、我先にと走り続ける。
 他の事ならともかく、こればっかりは譲るわけには行かないのだ。
 視線の先に見えて来た扉に、手を伸ばした。





 扉の向こうから地響きのように聞こえて来る足音に、コーディは振り返った。
 次の瞬間、蹴り破られたような勢いで扉が開いて、三人の亀が部屋の中に雪崩れ
込んで来た。
 スライディングで頭から突っ込んで折り重なる兄弟の、一番先頭は。
「……おめでとう。君が一着だよ、ラファエロ」
「――――っしゃあぁッ!!! 見たかこの野郎!!」
 コーディの言葉に、ラファエロが倒れたまま握り拳を天に突き上げた。対する二人は
もう一度力なく床に倒れ伏す。
「うっそぉ…………マジで?」
「ああ、そんなぁ……」
 あんなに頑張ったのに。
 酷い脱力感に襲われて頭を抱えるミケランジェロとドナテロ。
 これで、レオナルドはラファエロのものになってしまうのだ。絶望も一入である。
「ご苦労じゃったな、息子たちよ」
「先生!」
 ゆっくりと歩み寄るスプリンターに気付いて、三人は慌てて起き上がり姿勢を正す。
 スプリンターは背後に控えていたサーリンから何かの包みを受け取り、ラファエロに
差し出した。
「よくやった、ラファエロ。受け取りなさい」
「へ? はぁ、あ、ありがとうございます……?」
 唐突にプレゼントらしきものを貰って、困惑するラファエロ。両隣の二人も同様に面
食らった顔をしている。
 目で開けてみろと示され、ラファエロは首を傾げながらも包みを開く。
 そして中から出て来たものに、覗き込んでいた二人共々絶句した。
「…………………………何、これ」
「………………………………僕にはヌイグルミに見えるけど」
 そう。
 それは間違いなく熊のヌイグルミだった。しかも、どこかで見た事があるような。
「…………先生、これは…………」
「俺のぬいぐるみだよ、ラファエロ」
「「「レオナルド!?」」」
 横合いから笑い混じりの声が響いて、三人が一斉にそちらを向く。続きの部屋との
入り口にレオナルドが立っていた。
「うん。色々考えたんだけどな、やっぱり俺の大事なものって言ったらそれぐらいしか
思い付かなくて。刀貰ってもお前たちにはちゃんと武器があるし、俺も困るし」
「しかし、差し上げてしまってもよろしいのですか?」
 あのヌイグルミは確か、コーディの家に来てすぐにレオナルドが買って来たものだ。
元々持っていたヌイグルミは古すぎて使えなかったからである。
 以来、ずっと大切にしていたものの筈だったが。
 サーリンの問いに、レオナルドは笑って答える。
「ああ。さっきコーディと一緒に下の土産物屋で新しいの買ったからいいんだ」
「僕が選んであげたんだよっ。それからこれは先生に。今日のお礼です」
 机の上に置いてあった土産物を取ってスプリンターに差し出すコーディ。
「おお、これはご丁寧に。すまんのう」
「コーディってセンスいいでしょ? サーリンの教育の賜物かな、見直したよ」
「うむ、全く以って良く出来た子じゃ。同じ子育て経験者として尊敬に値するわい」
 優しい笑顔で褒められて、コーディとサーリンは顔を見合わせて微笑んだ。
 この一家に認められる事は何だかとても気恥ずかしく、しかし同時にとても嬉しい。
「では一段落した事ですし、お茶でも淹れましょうか」
「俺も手伝うよ。何か今日遊んでばっかりだったし」
「ありがとうございます」
「…………あ、そうだ。ラファエロ」
 サーリンに付いて部屋を出て行く直前、レオナルドはラファエロを振り返ってまるで
天使のように微笑んだ。

「その子……ライオネル二世、大事にしてやってくれよな。おめでとう、お疲れ様!」
「……………………」

 15歳にもなってヌイグルミかよ、とか。
 名前付けてんのかよ、とか。
 二世って何だ、とか。
 何がめでたいんだ、とか。
 疲れたに決まってんじゃねーか、とか。
 コーディとやけに仲良くなってないか? とか。

 言いたい事は数あれど、取り敢えずラファエロの口から出たのはこんな叫びだった。


「…………詐欺だあああああああああああああああああああああああああッ!!!」





     END……?





11000HITリクエスト「弟たちによるお兄ちゃん争奪戦〜FF編〜」でした!
あんまりギャグっぽくなくてすみません(汗)。相変わらず長いし。
コーディを出張らせたらラフレオって言うかコーディ×レオになってた(爆)。
「ライオネル二世」は勿論適当です(ヲイ)。Leo=Lion関係でそれっぽい感じの名前をとw
リクエスト下さったりりあん様のみお持ち帰りフリーとさせて頂きます。
11000キリリクどうもありがとうございました!










 おまけ。

「畜生レオの野郎!! 何が『大事にしろ』だ馬鹿にしやがって!!」
 その夜。
 ライオネル二世と共に部屋に戻ったラファエロは、怒りに任せてベッドにヌイグルミを
叩き付けた。ぼすっ、と飛び跳ねて枕の辺りに転がるライオネル二世。
 その円らな瞳がじっと自分を見詰めている気がして、ラファエロはぐったりとベッドに
突っ伏した。
 本当に、こんなもの貰ってもどうしようもない。
 兄と違って、ヌイグルミを抱き締めて眠るような趣味は自分には無いと言うのに。
「……こんなヌイグルミじゃ、お前の代わりになんかならねぇだろが」

 抱き締めたいのは、レオナルド自身なのだから。

「………………ちっ」
 指でクマの額を弾いて、ラファエロはベルトからサイを引き抜いた。





「ラファエロー、夕飯出来たってー!」
「あー、今行くー!」
 遠くからの呼び声に声を張り上げて返事をして、ヌイグルミをベッドサイドに置く。

 可愛らしいクマの顔には、少し不恰好な青いマスクが締めてあった。





     END