ゴロベエさん、ヘイハチさん、キュウゾウさん……それから、おっちゃま。
 聞こえるですか?
 オラ、今日で十六になったです。
 もう、大人ですよ。



     <契りを籠む>



 十の時に姉さまから水分りの水晶を受け継いで、もう六年です。
 オラ、沢山勉強したですよ。でもまだまだ、姉さまに教えて貰う事は多いです。

 そうそう、こないだシチの字が村に遊びに来たです。ユキノさんは相変わらず美人で、
村の若い衆目ェ真ん丸でした。二人目がもうすぐ生まれるみたいですよ。
 男の子だったら……ふふ、キクチヨって名前にするって言ってたです。ユキノさんは
「やんちゃ坊主になりそうだ」って笑ってました。

 おっさまの事を聞いたら、シチの字もあれから会ってないそうです。でも、一度だけ
文が来たって。詳しくは教えて貰えなかったですけど、多分元気だと思うです。
 ……キュウゾウさん、待ち切れないからって化けて出ちゃダメですよ?

 野伏せりとの戦で鍛えられてから、村の皆の仕事はどんどん上手になってるです。
 水を掘り当てる時も、機械の残骸で作った道具で凄く楽に掘れるようになりました。
 ヘイハチさんの教育の賜物ですよ。皆感謝してるです。

 リキチとサナエちゃんも、すっかり前みたいなおしどり夫婦に戻ってます。ちっちゃな
男の子を連れて、天主と赤ん坊のお墓参りもちゃんとやってます。
 少し前、「こごにはおめぇの兄さが眠ってるんだぁ」って教えてたのを聞いたです。
 リキチがああやって笑えるの、ゴロベエさんのお陰だとオラ思うですよ。

 姉さまは、最近すっかり村の外がお気に入りみたいです。村同士の情報交換とか、
そう言う役目を引き受けてあっちこっち大忙しで、あんまり村には帰って来ないです。
 それに……これはオラの勘ですけど。
 姉さま、恋してるです。相手は多分…………カツの字ですね。驚いたですか?
 昔は色々ありましたけど。もう二十歳も過ぎたんだし、そろそろだと思うです。


 そう言えば、昨日姉さまに聞かれました。「誰か、決めた人はいないのですか」って。
 そりゃオラももうお年頃です。でも……オラ、おっちゃまの嫁になるって決めたです。
 絶対、絶対です。
 だから、オラはずっと水分りの巫女を続けます。結婚したら巫女じゃないですから。
 跡継ぎはその内姉さまが生んでくれるから問題なしです!
 ですよね、おっちゃま。



「コマチ」
「オカラちゃん」

 親友の呼び声に、コマチは立ち上がった。

「お呼びだぜ、水分り様。西の井戸が涸れちまったんでよ」
「わかったです」
「早く来いよー」

 来た時と同じようにばたばたと走って行く背中を見送って、コマチはサムライたちの
墓を振り返った。
 そよ吹く風に、旗印がふわりと翻る。

「オラがそっちに行ったら――祝言ですからね」

 それまでは。

「皆さん、おっちゃまの事宜しくお願いします!」

 ぺこり、と頭を下げて、コマチは村へ駆けて行った。
 その少し後で。



「おう、待ってるぜコマチ坊!!」


 一陣の風がそう、答えた。





     終





お侍最終回記念のキクコマキク。コマチ坊は誰よりも強い子です。
「契りを籠む」とは「深い約束をする」という意味。